2018年8月1~3日にかけてサウジアラビアのジェッダにて、初めての『ハッジ(大巡礼)』をテーマにしたハッカソンが開催されます。
・参加者は旅費やホテル代をサウジアラビア王国が全額負担
これはハッジにおける様々な問題を解決するためのIT技術を競う大会で、世界各国からプログラマーやエンジニアたちが腕を競うために集まります。一部の間で有名になっていますが、このハッカソンは現在19000人が登録し、賞金金額の総額は日本円で6000万円、1位の賞金金額は3000万円になります。
海外からの参加者は旅費やホテル代をサウジアラビア王国が全額負担するというサウジアラビアの本気が伺えます。
・プログラマーやエンジニアたちが腕を競う
今回のハッカソンは、ハッジにおける様々な問題を解決するためのIT技術を競う大会で、世界各国からプログラマーやエンジニアたちが腕を競うために集まります。具体的な議題について公式サイト( https://hajjhackathon.sa )に掲示されているのは以下の9つです。
1. 渡航および宿泊のアレンジ
では今回のハッカソンの趣旨とも言えるハッジツアー、巡礼する際の簡単な流れを見てみましょう。ハッジツアーにはサウジアラビア国外からやってくる巡礼客が参加するツアーと、国内から参加するツアーがあります。
国外からハッジへ参加する人は、サウジアラビアへ入国するにあたって「ハッジビザ」の申請が必要になりますが、これは個人では申請が出来ません。サウジアラビアが各国に認定した公式ハッジツアーオペレーターと呼ばれるツアー会社が募集を掛けて、ビザの申請も行います。
ビザはまずサウジアラビアのハッジ省のオンラインサービスから申し込みます。申込みが受理されたらツアー会社はお客からパスポートを預かり、現地のサウジアラビア大使館へ提出します。通常数日でビザのステッカーが貼られたパスポートが戻ってきます。
ビザはサウジアラビアへの入国を保証するものとなりますが、実はこれだけではメッカ市内へ入ることは出来ません。ビザと一緒にビザ番号などを登録したQRコードの印刷されたリストバンドが渡されますが、これがメッカ市内への入場許可証となります。
出発までの間はツアー会社主催による「ハッジセミナー」が行われます。ハッジは決められた手順を踏まなくては達成したことになりません。いつどこへ移動して、そこでどんなことをするのか、宗教学者などが参加者に対してきめ細やかに説明を行います。
サウジアラビアへの入国は、ジェッダ空港もしくはマディーナ空港からとなります。メッカから距離の遠いアジア諸国などのツアーはハッジ本番の3週間以上前にはサウジアラビアに到着するものが多く、それらの殆どがまずはマディーナへ向かいます。
2. 宿泊施設
ハッジ本番の数日前になると、それらハッジ参加者もメッカへと移動してきます。メッカ市内には大小様々な宿泊施設があり、それぞれ各国のツアー会社と契約を結んでいます。
ハッジ期間中だけの契約から、ウムラ(ハッジ期間以外の時期にメッカに詣でること)ツアーを見越した年間契約まで様々。
3. 交通
ジェッダ空港からメッカまではバスで。ターミナル前のバスのりばにはひっきりなしに大型バスがやってきますが、荷物の搬入などで非常に時間がかかります。
バスの出発が整うまでハッジ参加者は待合いスペースで時間を潰すことになります。
市内の移動はタクシーが基本です。以前はメーターを倒さず言い値で走る違法タクシーや白タクが大半でした。
しかし5年ほど前からサウジアラビア当局による厳しい取り締まりが行われ、現在は路上にいるのは登録されたタクシーのみで、またメーターを倒さずに走った場合は罰金刑が課せられることになっています。
ハッジの本番中の移動は徒歩かバス、もしくは鉄道になります。鉄道は毎年割り当てが決まっていて、当局から指定された国からの参加者のみチケットを購入して乗ることができます。
チケットは有効期限や乗ることのできる区間によって色分けされたプラスチックバンドになっていて、乗り降りの際に手を頭上にかざすことでセンサーに読み取らせる仕組み。
鉄道は複線仕様。ただし、両端の駅でのスイッチング機能がないことから、同線路上を複数の編成が往復する格好になり、非常に輸送効率が悪いようです。
そのため、駅舎での待ち時間が相当長くなっています。
4. 食事と飲み物
食事は基本的にホテル内で食べますが、アラブ料理は最初は珍しくても日が経つに連れて飽きてしまいます。そのため、各ツアー会社が自国から調理人を同行させるケースも珍しくありません。
食事においては料理の嗜好以外に衛生面での問題もあります。大勢が一度に押し寄せることで想定されるレストランなどの衛生管理については、サウジアラビア政府および各国代表団による厳しいチェックが行われています。
5. 公衆衛生
衛生管理といえばトイレも無視できません。ハッジ本番が始まると、移動中のトイレの確保は非常に大きな問題です。一定間隔で臨時トイレが設置されてはいますが常に満室。そのため清掃等が追いつかない状態です。
6. コミュニケーション対策
またアラブ人以外のムスリムの中には、クルアーン(コーラン)は丸暗記しているが、アラビア語は全く分からないという人が結構います。怪我や病気をした際に医師の言っていることが分からないと不安になるでしょう。そういったケアのために自国から医師を同行させるツアー会社も少なくありません。
更に多くの国々では「ハッジ代表団」と呼ばれる国の代表グループが、自国のツアー会社を束ねる役目を果たしており、彼が医師などを帯同させてハッジ参加者の保護に当たっています。大勢が移動すると当然迷子になる人が出てきます。
ハッジ行事の一つに、ミナーと呼ばれるエリアのテント村で数夜を過ごし、毎日一度は石投げの儀式を行うというものがありますが、テントから出て石投げの場まで行ったものの、帰り道がわからなくなって迷っている人をよく見かけます。
ハッジに参加するためには膨大な費用がかかります。長年かけてお金を貯める必要があるので、参加者の多くが年配者です。彼らはアラビア語も英語も分からない上に、母国語も会話のみで文字が読めないというケースが少なくありません。
また地図は小さい頃から学習を積まないと読めるようにならないため、地図でここだと指さしても通じない場合があります。現在はリストバンドのQRコードから所属ツアー会社などある程度のレベルまではわかるようになっていますが、迷子者への対応はボランティアスタッフによる人力に頼っているのが現状です。
7. 混雑緩和と管理
大勢がほぼ同時に移動するため、混雑緩和対策は必須ですが、様々な国からの参加者全てにそれぞれの言語で対応するのには限界があります。
最も混雑するのはジャムラートと呼ばれる石投げの儀式を行う場所。ここは近年の改修工事によって4階層に別れた構造になっていますが、各階へのルートは決められており、一度通路に入ってしまうと行事を終えるまでは別の階へは移動できないようになっています。
ところが、一方通行で抜ける形になるため、行事終了後にミナーのテント村へ戻るには相当迂回する必要があります。そこで近道をしようと流れに逆行する人が出てきて、非常に危険な要素となっています。
8. 決済方法
土産物屋などの支払いは全てサウジリヤル。空港やメッカ市内で両替は可能ですが、国で待つ親類やご近所へのお土産を大量に買わなくてはならないハッジ客は、常に大量の現金を持ち歩くことになります。
カアバ神殿の周りを回るタワーフと呼ばれる行事では、基本的に手荷物は禁止されています。巡礼中、男性は2枚の白い布を上下半身にそれぞれ着用する以外は、縫い目のあるものを身にまとってはいけないため、財布などの貴重品はホテルの部屋に保管するか、革やプラスチックのみで作られたウェストポーチを腰に巻いてそこへ収納することになります。どうしても大きな荷物がある場合は、建物の外にコインロッカーが設置されており、そこで預けることが可能ですが、手続きなどが面倒なのか利用している人はあまり見かけません。
9. ゴミ対策
ハッジ参加者たちが出すゴミは膨大な量になります。道路脇などに設置されたゴミ箱などあっという間に満杯になってしまうため、外国人労働者が清掃に従事していますが、それでも追いつかないのが現状です。また分別回収については、自国でまだまだそういった対策が取られていないケースが多いため、基本的には全て一纏めにされています。
何しろ200万人以上の、国も民族も言語も違う人達が一斉にやってきて、同じ時期に同じ場所へ移動していくのですから想像を絶する行事です。その対策と管理にサウジアラビアは全国から人員を集めて国全体でサポートをしています。
今後はAIによる混雑回避など最新の技術が次々と投入されていくことが予想されますが、世界中のムスリムにとって人生で最大の行事であるハッジが、そういった様々な工夫によって、これからもより安全に施行されることを願っています。
もっと詳しく読む: サウジアラビアでハッカソン開催決定 / なんと旅費を国が全額負担という本気度が凄い(Photrip フォトリップ) https://photrip-guide.com/2018/07/30/hackathon-in-saudi-arabia/
ハッカソン公式サイト: https://hajjhackathon.sa/
(C)Muhammad. T / 鷹鳥屋 明