キャットフードやドックフードは、人間が食べても美味しいといわれている。ペットフード業界でも、人間が食べて美味しくないものは動物も美味しくないというのが通説のようだ。私は子供の頃に、冗談でキャットフードを食べたことがあるが、美味しいとまではいかないまでも、食べれないものではなかった。ちょっとしたバーベキュー味のスナック菓子という感じである。
そのようなペットフードの事情を知っていたので、上野動物園の食堂にてパンダやゴリラのエサを食べることができると知っても、さほど驚きはなかった。しかし動物のエサを人間の食事として提供するという食堂である以上、『世にも微妙なグルメガイド』で紹介せねばなるまい。まあ、精神的ショックを受けることになったのだが……。
上野動物園食堂はその名の通り、上野動物園の中に建っている。よって、600円を払って入場券を購入し、入園しなくてはならない。つまり、680円のパンダかゆセットを食べるためには1280円必要ということになる。それだけの金額を出してまでエサを食べたいというエサマニアじゃない限り、払うのがキツイ金額である。
「上野動物園に行く機会があったら、ついでに食べておこうか」程度の気持ちで試食してみるのがベストだ。まあ私の場合は「エサを食べるついでに上野動物園でも見学するか」なのだが……。
エサを食べに行くにあたって、ひとつ注意点がある。食堂の在庫がなくなっている場合があり、せっかく入園しても食べれない場合があるのだ。そんなことがないように、チケット売り場で案内係の人に在庫があるかどうか調べてもらうことができる。600円を支払って入園したはいいが、エサが食べれないのでは入園した意味がないしね(?)。
上野動物園の中心付近に、エサを食べることができる食堂がある。他にもいくつか食堂はあるのだが、中心にある食堂でしか食べることができないので注意が必要だ。食堂に到着した私は、さっそくパンダかゆセットを注文。店員の目が厳しい……。子供が注文するのならいいが、大人の男が一人で現れてパンダのエサを食うのだから、そりゃあ変に思われても仕方がない。
冷たい視線に絶えきれず、私はパンダかゆセットを持って、野外テーブルに移動。
セットの内容は、リンリン用おかゆとシュアンシュアン用おかゆ、パンダ団子、熊笹エキス入り抹茶ゼリー、ニンジン&リンゴピューレの5点だ。
見た目は精進料理のようで、「これを毎日食べていたら健康に過ごせるナァ」と思ってしまうほどにシンプル。それぞれのエサの感想は次の通りだ。
モッサリとしていて、口の中でベタつく。決して美味しいものではないが、これでも人間向けにアレンジされたエサだという。パンダは朝夕1個づつ食べている団子らしいが、私は一生に1個だけ食べれれば十分だ。レシピは、とうもろこし粉200g、脱脂大豆粉100g、きび砂糖15g、パンダミルク50g、水200cc弱。パ、パンダミルクっていったい……。
本来はパンダに食べさせていないエサだが、このセットのためだけに作られたゼリーである。まずくはないが、決して美味しいものではない。子供が好きな味ではなく、年配者向けの味といえばわかるだろうか。ヨウカンに似た食感が好きな人であれば、美味しく食べることができるかもしれない。このゼリーを食べることによって、疲労回復や不眠症、口臭予防、そして高血圧に良い効果があるというが、私はもういらない。
シュアンシュアン用のおかゆに入れて食べるためのオプション料理だ。試しにおかゆには入れず、このままで食べてみたが、とても美味しかった。自然に近い味なので、余計な味付けがされていないのが特徴だ。
最悪である。非常に言いたくない表現方法だが、まるで食感がゲロなのだ。トロトロッとしていて粘りがあり、ニオイがとてもミルク臭い。吐きたてのゲロなのである。飲みこむごとに、まるでタンを飲み込んでいるかのごとく、気持ち悪さが込み上げてくるのだ。食べずにそのままカウンターに返そうと思ったが、何ともいえない敗北感を感じてしまい、「負けるわけにはいかない」と意味不明の感情に押され、完食をしてしまった……。こういう料理は、もう勘弁してほしい。
レシピは、馬肉スープ250g、パンダミルク50g、麦ご飯1合、きび砂糖30g、塩1g、整腸剤。パンダ団子に引き続き、またもやパンダミルクが……。コイツが諸悪の根源なのではなかろうか。
エサとはいえ、普通に食べれるおかゆの味だ。リンリン用おかゆよりも5億倍は美味しい。材料にミルクを使用していないからだろうか、とてもあっさりしている。このパンダかゆセットの中で、一番まともな料理だろう。パンダかゆセットの説明書きによれば、このシュアンシュアン用おかゆに、ニンジン&リンゴピューレを入れると美味しいらしい。
私はさっそく入れてみたのだが……、信じられないことに、最悪の味に大変身。この世のものとは思えない、口にするのもツライ、涙が自然と流れ落ちる味になってしまった。説明書きには混ぜろと書いてあるが、決して混ぜてはいけない。漂白剤と洗濯洗剤を混ぜて使うとダメなのと同じくらい、この二つも混ぜてはダメだ。死んでしまうかもしれない。気をつけろ……。
レシピは、米250g、ニンジン300g、芯のないリンゴ4個、鶏か牛のスープ鍋1杯、ビタミン剤。どんなビタミン剤が入っているかは不明である。
パンダのエサの次は、ゴリラのエサに挑戦をすることにした。精神的なショックを受けた後だけに、今度は廃人になってしまうのではないかと、心底不安である。パンダかゆセットに引き続き、大人の男一人がゴリラの食事を注文。店員の私に向ける視線は、まさに変人扱いである。もういい。生きて帰れればそれでいい。
偏見の目に耐えつつ、ゴリラの食事を受け取り、その内容を見て私の頭の中は真っ白になった。バナナに煮干しに落花生に……って、そのまんまじゃん!! 料理というより、普通に商店で売っているモノを集めて出しているだけじゃん!! これは本当にゴリラの食事なのか!? いろいろな釈然としない気持ちはあったが、バナナを剥いて食べ、煮干と落花生をポリポリ噛み、上野動物園を後にした。
あぁ、パンダかゆセットよりハードなモノじゃなくて良かった……。
●おすすめメニュー
パンダかゆセット 680円
パンダミルクをふんだんに使って調理された料理。ハッキリ言って、凄まじくカルチャーショックを受ける。
ゴリラの食事 680円
エサというよりも、果物や煮干がそのまま手渡されるだけ。ちょっとガッカリ。
パンダ団子 250円
モッサリとした食感が好きな人にオススメ。味や食感は、キビ団子に近いものがある。
メキシカンサボテンカレー 680円
なぜ上野動物園にあるメニューなのか理解できないが、食用サボテン入りのマトモなカレーである。
みそ汁 100円
まったくもって普通の味噌汁だが、パンダかゆセットの後に飲むと幸せを感じる。
店名:上野動物園食堂
業種:バラエティー
住所:東京都台東区上野公園9-83
営業時間: 9:30~17:00
定休日:月曜日(月曜が祝日の場合は、翌日に休園)
席数:100席以上(野外テーブル含む)
※記事内容は取材時の情報です